2025/05/14
企業におけるメンタルヘルス対策は、従業員の健康を守るだけでなく、業務の生産性を保ち、離職を防ぐといった経営面でも重要性を増しています。特に中小企業では、人員や予算が限られる中で、いかに実効性のある対策を講じるかが共通の課題となっています。
ストレスの実態
厚生労働省が2024年3月に公表した「職場におけるメンタルヘルス対策の現状等」によれば、現在、仕事や職業生活において「強い不安、悩み、ストレス」を感じている労働者の割合は全体で82.2%にのぼっています。これは、働く人の8割以上が強いストレスを抱えながら日常的に業務に従事していることを示しており、職場のストレス環境が無視できない課題であることを示しています。
(出典)労働者健康状況調査、労働安全衛生調査(実態調査)/厚生労働省職場におけるメンタルヘルス対策の現状等(令和6年3月29日)
こうしたストレスの主な要因としては、「仕事の量」が36.3%と最も高く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が35.9%、「仕事の質」が27.1%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が26.2%と続いています。つまり、ストレスの多くは職場の構造的な要因や人間関係に起因しており、個人のストレス耐性や“がんばり”だけでは十分な解決が難しいことがうかがえます。根本的な改善のためには、職場の環境や業務体制そのものを見直すことが必要と考えられます。
(出典)労働者健康状況調査、労働安全衛生調査(実態調査)/厚生労働省職場におけるメンタルヘルス対策の現状等(令和6年3月29日)
企業の対応
では、こうした実態を踏まえて企業側の対応はどこまで進んでいるのでしょうか。ストレスチェック制度の実施については、労働安全衛生法により従業員50人以上の事業場では実施が義務づけられており、導入率は年々高まっているとされます。しかし、同調査によれば、実施後の対応にはばらつきがあることがわかります。
(出典)労働安全衛生調査(実態調査)特別集計/厚生労働省職場におけるメンタルヘルス対策の現状等(令和6年3月29日)
ストレスチェックを実施している企業のうち、その結果について集団分析を行っている割合は全体の28.9%、50人以上の事業場でも62.0%にとどまります。また、分析結果を基に職場環境の改善に取り組んでいる割合は全体で23.2%、50人以上の事業場でも50.5%と半数程度となっています。制度的な対応が進んでいるように見えても、実際には改善策に結びついていないケースが決して少なくない実情が、データによって示されています。こうした背景が、社員のメンタルヘルスを悪化させ、生産性の低下や離職につながっている可能性があります。
一方で、調査結果からは、中小企業における対策の難しさも明らかになっています。従業員規模が小さくなるほど、ストレスチェック後の対応や職場改善の実施率が低下する傾向が見られます。背景には、「どう対応すればよいか分からない」「分析や改善を進める人材がいない」「コストがかかる」といった現実的な課題があると考えられます。
このような状況を受けて、近年では「すべてを社内で抱え込まず、必要に応じて外部の専門機関の支援を活用する」という選択肢が注目されています。外部支援の活用は、メンタルヘルス対策の実効性を高めるための有効な手段であり、特に中小企業にとっては限られたリソースを補完する現実的な方法といえるでしょう。
外部リソースの活用
たとえば、産業医、社会保険労務士、公認心理師、臨床心理士などの専門職による支援を受けることで、法令に基づく適切な対応が可能になるだけでなく、実効的な取り組みを行うことができます。メンタルヘルスに関する相談体制の整備、ストレスチェックの結果を活かした改善提案、従業員や管理職に対する研修など、専門的知見が求められる領域において、外部支援は一定の役割を果たすことができます。
こうした外部支援の選択肢の一つとして、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)があります。EAPは、外部機関が従業員に対する心理的支援や組織改善のためのコンサルテーションを提供する仕組みで、欧米を中心に導入が進んできましたが、近年では日本国内でも導入事例が増えています。
EAP事業者が提供する主なサービスには、以下のようなものがあります。
・ストレスチェック結果の集団分析と改善提案:データに基づいた改善アクションを設計し、職場全体のストレス低減を図ります。
・ラインケア研修(管理者向け):部下の変化に気づき、適切に対応するためのスキルと知識を習得します。
・セルフケア研修(従業員向け):従業員自身がストレス状況に気づき、適切に対処するための知識とスキルを学びます。
・マネジメントコンサルテーション(管理者向け):職場内の人間関係や部下対応、ハラスメント防止など、マネジメント上の課題について、専門家が個別に相談・助言を行い、管理職の判断力と対応力をサポートします。
・カウンセリング(従業員向け):従業員が安心して相談できる体制を整え、問題の早期発見・対応を促進します。
EAPの活用
EAPのような外部機関を活用することで、社内の対応力を補いながら、より持続可能なメンタルヘルス対策を構築することが可能になります。もちろん、すべての対策を外部に委ねる必要はありません。まずは自社でできることを整理し、その上で、対応が難しい部分について外部支援を活用するという段階的なアプローチも有効です。EAP事業者は、こうした内部リソースと外部リソースを組み合わせたハイブリッドな体制構築も支援します。
今後、働き方の多様化や人材確保の競争が一層激しくなる中で、従業員が心身ともに健康に働ける職場環境を整えることは、企業の競争力維持や持続的な成長のためにも欠かせない要素です。特に中小企業においては、「できるところから始める」「必要な部分は外部に委ねる」といった現実的な視点での取り組みが、長期的な成果につながっていくと考えられます。
まずは自社の職場環境におけるストレス要因を可視化し、必要な支援体制を検討することから、次の一歩を踏み出してはいかがでしょうか。一般社団法人目白心理総合研究所は、メンタルヘルス対策の体制構築・運用から実効性のある施策の実施まで、貴社の状況に合わせて柔軟な支援を提供いたします。まずはご相談ください。
執筆 寺田美秋