2026/03/13

卒業や異動など、慣れ親しんだ環境が「過去」へと変わっていくこの季節。
振り返れば、数年前の自分と今の自分とでは、自分自身の在り方も、未来の描き方も、驚くほど変わっていることに気づかされます。
それなのに、私たちはなぜか「これまでの自分は大きく変わってきたけれど、これからの自分はもう、それほど変わらないだろう」と感じてしまいます。
過去の自分を「未熟だった」と振り返ることはできても、未来の自分が今とは全く違う価値観を持っていることは、なかなか想像できません。
実は、これは脳が見せている「思い込み」のひとつで、この心理現象を「歴史の終わりという錯覚(The End-of-History Illusion)」と呼びます。
2013年、ハーバード大学のジョルディ・クォイドバック(Jordi Quoidbach)博士らは、18歳から68歳までの男女1万9,000人を対象に大規模な調査を行いました。
その結果、どの年代の人も「10年前の自分からは激変した」と認める一方で、「10年後の自分は今とほとんど変わらないだろう」と予測したのです。
驚くべきことに、この錯覚は10代でも、60代であっても同様に起こっていました。
つまり、私たちは何歳になっても、「今の自分が完成形」だと感じてしまう性質があるのです。
この研究には面白い実験があります。参加者に「今の好きなアーティスト」と「10年前に好きだったアーティスト」のコンサートチケットにいくら払えるかを尋ねました。
すると、多くの人が「10年前の推し」にはあまりお金を払いたくない一方で、「今の推し」なら10年後も変わらず好きなはずだから、高いチケット代を払ってもいいと回答しました。
今感じる「一生モノ」という感覚さえも、実は脳が見せる一時的な魔法なのです。
ではなぜ、私たちはこの錯覚に陥るのでしょうか。
それは、脳にとって「過去を思い出す(検索)」よりも、「未来を想像する(構築)」ほうが、圧倒的に負荷が高い作業だからです。
脳は不確実な未来をシミュレーションするエネルギーを節約するために、「自分はもう出来上がった存在だ」「今が人生の完成品(最終章)だ」と思い込み、変化の可能性に蓋をしてしまうのです。
いわば、脳による「現状維持」のための防衛反応ともいえます。
しかし、事実は違います。
私たちは死ぬまで、自分という物語の「工事中」の現場にいます。
年度末の忙しさの中で、「自分はもう、こういう性格だから」「今さら変われない」と、今の自分を最終形だと思い込んでいませんか?
その感覚こそが、脳が見せている心地よい「錯覚」なのです。
あなたの「歴史」は、まだ終わっていません。
新しい知見に触れ、新しい人と出会うたび、あなたの価値観はこれからも鮮やかに書き換えられていきます。
今の自分を「完成品」として守るのではなく、「未完成の可能性」として面白がる。
目白心理総合研究所は、そんな皆さんの「現在進行形の変化」を、心理学の確かな視点から見守っています。
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