2024/11/25
「ガスライティング(gaslighting)」という言葉をご存知でしょうか。
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、パリオリンピックで初めて採用された種目「ブレイキン」で、独特のパフォーマンスを披露するも「0点」を獲得したことが話題となったオーストラリア代表の「レイチェル・ガン(ダンサー名Raygun)」選手が「ガスライティング」を行ったとして非難され話題にもなりました。
「ガスライティング」とは、心理的虐待の一種とされ、故意に誤った情報を提示して、相手に自分自身の記憶、知覚、正気、認識を疑うように仕向ける手法をいいます。
つまり、わざと現実感覚を狂わせることで、相手は自分の感覚に自信がもてなくなって精神的に追い込まれ、正常な判断力も奪われて支配されていきます。
この「ガスライティング」という名前は、1938年に製作された英国の舞台劇を1944年に米国で映画化した『Gaslight(ガス燈)』に出てくる夫の行動に由来しています。
妻の財産を狙うために夫が小細工を施し、例えば「ガス燈」を薄暗くしたり、物音を立てたりと様々な手段を使って妻を混乱させ、妻が指摘しても夫は「気のせいだ」と否定して、責め続けることで、妻は自らを信じられなくなって、精神を病んでいく様子が描かれています。
「ガスライティング」の具体例は、次のとおりです。
■ 言動でのコントロール
・相手の感情や意見を一蹴して責める
・価値観や能力を否定し、自信をなくさせる
・嘘をついて混乱させる
・脅して恐怖心をあおる
・相手に悪いことをしたと思わせて罪悪感を抱かせる
・自分の意見ばかり押し付けて見下す態度をとる
■ 不自然な現象を起こす
・過去の出来事や事実を捻じ曲げる
■ 相手を不利な立場に追いやる
・なんでも「あなたが悪い」とされてしまう
・周囲の人に反感を買うように立ち回ったり、悪い噂を流して孤立させる
・周りに頼れる人がいないように仕向ける
このように、「ガスライティング」では、「あなたはいつも間違っている」「あなたは何もできない」と繰り返し言われることで自信を失い、自尊心を傷つけられ、誰にも相談できずに孤独となって、精神的な健康が損なわれていきます。
最初は小さなことから始まり、徐々にエスカレートしていきますが、暴言や無視といった明確な加害行為がないため、自分が虐待されていることに気づきにくいのが特徴です。
家庭内だけでなく、職場、恋愛関係など、様々な場面で起こりえますが、家族や恋人といった関係性においては、相手の精神的な自立を奪い、依存させるための手口として使用される場合があり、結果として、相手から離れることができなくなったり、相手の言いなりになってしまいます。
「ガスライティング」の怖さは、単なる「心理操作」と違い、最終的に相手の自立を奪って、「破滅」に追い込むことにありますので、「自死」「犯罪」「退職・退学」「家出」に至ってしまう場合があり大変危険なのです。
「ガスライティング」は、2018年に英国では流行語となり、百科事典で知られる米国大手出版社「Merriam-Webster」によれば、2022年にインターネット上で調べられた回数は、前年比で1740%も増えて、同社の「Word of the Year」にもなりました。
近年の風潮ともいえる「陰謀論」や「ディープフェイク」「集団心理の利用」といった情報操作によって、現実認識を歪めようとする手法が蔓延し、「ガスライティング」の言葉の意味も「騙す」「嘘をつく」といった、より幅広い使われ方に変わってきたようです。
「ガスライティング」の手法は、身近な関係性に留まらず、オンライン上でも情報操作のために巧妙に利用されていますので、私たち一人ひとりが注意深く情報に対処する必要があります。
「何かおかしい」と感じる方は、ホームページ「お問い合わせ」からお気軽にお声がけください。
身を守るには、まず自分の感覚を信じること、そして、一人で抱え込まずに相談してください。
[ 一般社団法人 目白心理総合研究所 ]
臨床心理士 / 公認心理師 / キャリアコンサルタント
/ CEAP / EAPコンサルタント /
CBT Therapist®︎ / CBT Professional(EAP) / CBT Extra Professional ®︎
目白駅から徒歩2分
池袋駅から徒歩10分